野球肩という病名はありません。
野球肩とは、野球の投球動作(とくにオーバースロー)によって肩が痛くなり、いろいろな原因によっておこります。
- 使いすぎ
- 関節(かんせつ)
- 腱(けん)
- 筋肉(きんにく)
野球肩の場合、痛む部位によって肩の前が痛んだり、肩のうしろが痛んだりします。
野球肩だけじゃなく、水泳肩(バタフライ)、バレーボール(アタック)、テニス(サーブ)など、オーバーヘッドスローイングが必要な競技でなりやすいです。
今回は、野球肩とは? という疑問に答えるために、症状や原因、痛みのチェックリスト。治しかたから再発予防のリハビリの方法までお伝えします。
この記事を読めば、治療院に通院する必要がなくなるレベルで書いてます。
野球肩(投球障害肩)の症状
野球肩(投球障害肩)にはどういう症状があるのでしょうか?
- 100%の力で投げるのがこわい
- 腕をあげるのがこわい
- レントゲンでは異常なし(筋肉はレントゲンには映りません)
野球などの投球動作(オーバーヘッドスローイング)をおこなうスポーツをしていて、上記のような症状や違和感があれば野球肩の可能性があります。
あと、投げた瞬間に「バキッ」と音がするのは、肩の亜脱臼(あだっきゅう)や、関節唇損傷(かんせつしんそんしょう)などもありえます。
野球肩になる原因
野球肩の原因は、多くの場合「筋肉」が関係しています。
肩関節まわりには小さい筋肉がたくさんあります。ふだんならスムーズに伸び縮みして、肩関節を自由に動かしてボールを投げることができます。
しかし、何かの原因で肩に負担がかかってくると、筋肉が疲労して痛み(炎症)をおこします。
その原因は、
- ピッチングフォームの崩れ
- 使いすぎ
どちらかになります。※実際には両方の場合が多い印象です。
ピッチングフォームの崩れ
いわゆる「手投げ」状態。全身をつかって「釣りざお」のように、しなやかな腕のふりができなくなると、ヒジや肩に負担が増えます。
使いすぎの場合
- 子供なら成長期なのに投げすぎ
- 大人ならウォーミングアップ不足
ボールは腕で投げるわけではなく、腕・背中・腰・足と全身で投げます。下半身で作られたパワーを腕に集めてボールを投げこみます。
足腰に疲労が貯まったり、筋力が低下したりすると、結果的に上半身だけで投げてしまいます。
筋肉は、痛み(疲労)があったり、緊張したりするとスムーズに伸び縮みしません。伸び縮みしない筋肉のままだと、血管や神経も圧迫されて、痛みの悪化や、ケガのリスクも増えます。
痛みがあるのに無理をして投げると、
- 下半身がうまくつかえない
- 上半身だけで力んで投げる
- ボールにスピードがない(球が軽い)
- コントロールも悪くなる
悪循環となり、肩周りの小さな筋肉を痛め続けるので野球肩になってしまいます。
野球肩になりやすい人
成長期(小学生~高校1年くらい)
1番大人の指導が重要な時期です。
むちゃくちゃな練習メニューで野球肩になってしまいます。
骨の成長と筋肉の発達がアンバランスな時期です。短時間で投球練習を終わらせたり、球数制限をしたり、練習メニューを調整する必要があります。
子供は大人がいうことをマジメに実行します。
※昔、小学校4年の男子が「肩が痛い」と来院しました。話を聞くと、300球の投げこみを指導されたとのこと。
この指導した大人はコーチや監督ではなく、野球経験のあるチームメイトの保護者でした。ありえない話です。根性論でスポーツは絶対うまくなりません。
成長期終了くらい(高校2年くらいから)
筋力も大人と同じようになり、成長も止まる時期です。
この時期は、オーバーユース(使いすぎ)とアイシングなどのケア不足が野球肩になってしまいます。
部活動なども本格的になり、スポーツ中心の生活になっている場合もあります。筋肉は十分ありますが、ケアの方法を知らないので「疲れを貯めたまま練習する」このくり返しによって、肩を痛めます。
スポーツの技術だけでなく、コンディショニングの方法を学んでほしい時期でもあります。
社会人
ウォーミングアップやクールダウンが中途半端な人は、野球肩になってしまいます。
大人になると、趣味として野球などをされるかたが多いです。学生時代に比べると圧倒的に運動量が減ります。さらに草野球だと、グランドの時間も限られているので、ウォーミングアップやクールダウンが適当になります。
野球肩はもちろん、足の肉離れやギックリ腰などのケガも増えます。
また、ふだんは仕事でデスクワークなど、筋肉が硬くなる環境にいることが増えます。そのままだと足腰をつかったピッチングができないため野球肩になります。
試合前に、体操や、軽く息が上がる程度の運動をしっかりおこないましょう。
試合後は、打ち上げかもしれませんが、肩だけでもアイシングするなどの工夫が必要です。
肩の運動学
肩の動きをイラストで説明します。覚えておくと説明の理解が深まります。
肩を前後に動かす(屈曲・伸展)
専門的には、
- 肩甲帯の屈曲、伸展
筋肉
- 屈曲:前鋸筋(ぜんきょきん)・小胸筋(しょうきょうきん)
- 伸展:菱形筋(りょうけいきん)・肩甲挙筋(けんこうきょきん)・僧帽筋(そうぼうきん)
肩をあげる、下げる(挙上・下制)
専門的には、
- 肩甲帯の挙上、引き下げ(下制)
筋肉
- 挙上:僧帽筋上部(そうぼうきんじょうぶ)・菱形筋・肩甲挙筋
- 下制:僧帽筋下部・小胸筋・鎖骨下筋(さこつかきん)
ヒジを曲げて腕をとじる、開く(内旋・外旋)
※イラストは腕が伸びたまま
専門的には、
- 肩の外旋、内旋
筋肉
- 内旋:肩甲下筋(けんこうかきん)・大胸筋(だいきょうきん)・広背筋(こうはいきん)・大円筋(だいえんきん)
- 外旋:棘下筋(きょっかきん)・小円筋(しょうえんきん)・三角筋後部(さんかくきんこうぶ)
横にあげた腕を下げる。さらに身体の内側に動かす(内転・外転)
腕を横に開く(横からバンザイ)
専門的には、
- 肩の内転、外転
筋肉
- 内転:広背筋・大円筋・大胸筋(胸腹部)
- 外転:三角筋(中部線維)・棘上筋・上腕二頭筋長頭(じょうわんにとうきんちょうとう)
脇に下ろした腕をまっすぐ前方にあげる、腕をまっすぐうしろに引く(前方挙上・後方挙上)
専門的には、
- 肩の屈曲、伸展(前方挙上、後方挙上)
筋肉
- 前方挙上:三角筋(前・中部)・大胸筋(鎖骨部)・烏口腕筋
- 後方挙上:広背筋・三角筋(後部)・大円筋
画像引用:筋肉のしくみ・はたらき事典 東京大学大学院教授:石井直方監修
痛む場所の違い
肩には、棘上筋(きょくじょうきん)・棘下筋(きょっかきん)・小円筋(しょうえんきん)・肩甲下筋(けんこうかきん)とよばれる4つの投球動作に必要な筋肉があります。
この4つの筋肉は、「回旋筋腱板:かいせんきんけんばん(ローテーターカフ)」とよび、腕と肩をつなぎとめる働きがあり大変重要です。
ひとつの筋肉、または複数が痛んでしまうと投球に支障をきたします。
棘上筋(きょくじょうきん)
棘上筋に異常があると、肩の横やうしろに痛みが出ます。
棘下筋(きょっかきん)
棘下筋に異常が出ると、肩の横やうしろ、腕(親指ライン)に痛みが出ます。
小円筋(しょうえんきん)
小円筋に異常が出ると、肩のうしろや腕の横に痛みが出ます。
肩甲下筋(けんこうかきん)
肩甲下筋に異常が出ると、肩のうしろや二の腕(上腕三頭筋)に痛みが出ます。
※イラストはトリガーポイントといって、損傷した筋肉が痛むのはもちろん、赤で示された離れた場所も痛む現象です。
紹介した4つの筋肉は、テスト法によって、判断することが可能なので次にお伝えします。
棘上筋(きょくじょうきん)の筋テスト
棘上筋、筋テストの方法
- 壁の横に立ちます
- 手の平を正面にむけたまま、ややななめ前に腕を動かす(バンザイ)していく
動画はわかりやすくするために壁の横に立っていません。腕の動かす方向に壁がくるようにしましょう。
理想は、誰かに手伝ってもらい、あげる手に抵抗を加えてもらう。
後ほど紹介する、チューブトレーニングができるかどうかも筋テストに応用できます。
働きとして、肩関節の外転に関係します。
バンザイ動作で痛みがでる場合、棘上筋に異常がでている可能性ありです。
画像引用:wikipedia
棘下筋(きょくかきん)の筋テスト
棘下筋、筋テストの方法
- 壁の横に立ちます
- 手の甲を正面にむけたまま、ややななめ前に腕を動かす(バンザイ)していく
動画はわかりやすくするために壁の横に立っていません。腕の動かす方向に壁がくるようにしましょう。
腕を動かすとき、手のひらを外ねじり(外旋)しながらでも可。
理想は、誰かに手伝ってもらい、あげる手に抵抗を加えてもらう。
後ほど紹介する、チューブトレーニングができるかどうかも筋テストに応用できます。
外旋の動きに関係します。より正確にチェックするにはペアでおこないましょう。
小円筋(しょうえんきん)の筋テスト
画像引用:クリニカルマッサージP140
- 壁の横に立つ
- 脇をとじて、ヒジを90度曲げて、手の甲で壁をおす
漫才でいう「ツッコミ」動作です。脇が開かないように注意します。
棘下筋と同じで外旋の動きに関係します。
動画はわかりやすくするために壁の横に立っていません。腕の動かす方向に壁がくるようにしましょう。
後ほど紹介する、チューブトレーニングができるかどうかも筋テストに応用できます。
肩甲下筋(けんこうかきん)の筋テスト
画像引用:クリニカルマッサージP142
- 壁に背をむけて立つ
- 手のひらで壁をおして身体をおこす
壁と足元の間は30cmくらいあけましょう。
肩甲下筋は、内旋(腕を内側にねじる)に関係します。
動画はわかりやすくするために壁の横に立っていません。腕の動かす方向に壁がくるようにしましょう。
後ほど紹介する、チューブトレーニングができるかどうかも筋テストに応用できます。
4つの筋肉のチェックは、左右両方やりましょう。最終的な判断は、MRIになります。※筋肉はレントゲンに映りません。
筋肉チェックをして痛みがあった場合、インピンジメント症候群か回旋筋腱板損傷かもしれません。
インピンジメント症候群
画像引用:投球障害肩はこう診てこう治せ P21
画像引用:順天堂大医院
インピンジメントとは、「衝突」や「はさまる」という意味がある。
インピンジメント症候群は、腱板※や滑液包(かつえきほう)、筋肉が肩関節の動きによって、肩にあるトンネル(烏口肩峰アーチ)の中で「衝突」や「はさまる」ことで痛みがでます。
- ※腱板とは、肩関節を安定させる筋肉や腱の集合体です。棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋が肩に集合した部位。
- ※滑液包とは、液体で満たされた袋で、平べったい形をしている。骨と靭帯や筋肉などによる摩擦を予防してくれている。
肩を持ちあげようとすると強い痛みがでます。(インピンジメント徴候)
症状 | 烏口肩峰アーチと腱板や滑液包が肩の外転や外旋運動により、衝突することで痛む |
治療 | まずは肩の安静。湿布やアイシングで痛みを取る。痛みが落ち着けばリハビリで手にアイロンなどを持って肩を動かす運動療法 |
回旋腱板損傷(かいせんきんけんばんそんしょう)
画像引用:日本整形外科学会
4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)が炎症や損傷をおこす。
1番損傷しやすいのが、棘上筋の腱です。なぜなら、肩にあるトンネル(烏口肩峰アーチ)の中を通って、腕の骨(上腕骨)についています。
付着部分がアキレス腱のようにぶ厚い組織なので、血管が少なく、栄養など流れが悪いところです。投球動作などによって肩をこく使すると、圧迫や摩擦(まさつ)によって断裂や不全断裂をおこします。
※大人の場合、五十肩の原因にもなります。
症状 | 肩の腫れ、痛み、バンザイできない、はばたくような動きができない |
治療 | 完全断裂は手術。その他は固定して安静。痛みが落ち着けばリハビリで筋トレ |
断裂や不全断裂をおこしていない場合、インピンジメント症候群が考えられます。
ルーズショルダー
動揺肩(どうようかた)や、動揺性肩関節症(どうようせいかたかんせつしょう)とよばれ、肩関節が不安定で普通の人と比べると可動範囲が広い状態です。多くの場合、生まれつき(先天性)です。
ルーズショルダーの人が投げすぎによって肩を酷使すると、痛みがでます。
少年野球(10代前半)で多い野球肩が、次の紹介するリトルリーガーズショルダーです。
症状 | 肩を使ったときだけ痛む。不安定感、脱力感、けんたい感がするときあり。ボールを投げたとき肩が抜ける感じがする。 |
治療 | 不安定感解消のため、回旋筋を積極的に強化する。練習後はアイシング。フォームの改善が必要な場合もある。 |
上腕骨骨端線離開(リトルリーガーズショルダー)
画像引用:札幌スポーツクリニック
オスグッド病って聞いたことありますか?
成長期にヒザの下が痛くなる障害です。上腕骨骨端線離開(じょうわんこつこったんせんりかい)は、オスグッドと同じように成長期におこる肩の障害です。
上腕骨(肩につながる骨)の骨頭(こっとう)には、成長軟骨があります。
投げすぎによって、この成長軟骨が離開(分離)している状態です。
症状 | 上腕骨骨頭の成長軟骨が離開して肩に痛みが生じる |
治療 | 痛みのあるときはアイシングや湿布。2~3ヶ月は投球禁止。骨端線はレントゲンに映るので定期的に骨の状態を確認しておく。フォームの改善が必要な場合もある。 |
関連記事
https://enshp.com/blog/post-9059/
肩甲上神経損傷(けんこうじょうしんけいそんしょう)
棘下筋や棘上筋を支配(コントロール)するのが肩甲上神経です。
神経を圧迫すると、筋肉が痩せてきます。(肩甲上神経の場合、棘下筋や棘上筋)
筋肉が痩せてくるので、腕をあげたり、外旋したりするときに力が入りづらくなります。
痛みとして、肩のうしろの外側にでてきます。
症状 | 神経の圧迫により、筋肉が痩せてくる。肩を動かす動作がやりづらくなる。痛みが出る場合、肩甲骨の外側に出やすい。原因がガングリオンの場合あり。 |
治療 | ガングリオンの場合、病院なら注射針でつぶす場合あり。基本は安静にして、筋力改善のリハビリをおこなう。ステロイド注射の場合もあり。 |
関節唇損傷(かんせつしんそんしょう)
使いすぎや肩の打撲などによって、関節の中にある、関節唇※が損傷してしまう。
一度はがれると自然には治らない。
※関節唇とは、肩甲骨にあり、腕の骨とつながる部分にある線維性の組織。丸く骨の部分についています。肩関節がぶれないように支えている。
症状 | 投げたときに、肩の痛み、抜ける感じ、ひっかかり感あり。はがれる場所によって不安定感が違います。MRIやCTで検査します。 |
治療 | 安静。軽症なら1~2周間ノースロー。痛みが強い場合、湿布や注射。筋力トレーニングは必要。重症の場合、手術が必要。 |
上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうえん)
力こぶをつくる筋肉が上腕二頭筋です。二頭のうちの長頭の腱が炎症をおこします。
症状 | 炎症あり:投球動作で痛み。夜間痛。 断裂したとき:肩からうでへの痛み。ヒジ前面の腫れや皮下出血 |
治療 | 安静にして、湿布やアイシング。 |
次は、「野球肩の治しかた」を紹介しています。