鍼灸自体、一般的な認知度は低いままですが、なくならないのはなぜか? 当然ながら鍼灸治療に効果があるからです。
個人的には整体より5倍から10倍は効果的と思っています。
今回は、個人的な鍼灸の効果ではなく、論文に掲載されたデータや、医療関係の権威の発表から解説していきますね。
世界保健機関(WHO)が定めた鍼灸効果の適応症
コロナが流行しだしたころ、毎日のように名前を聞いたWHO(世界保健機関)。あのテドロスさんが議長をつとめています。
今となってはWHOがいっている鍼灸の適応症の「信ぴょう性はどうなの?」と思っていますが、鍼灸の効果をしめす根拠として一番有名です。
2) 呼吸器系3疾患:急性気管支炎・小児気管支喘息および気管支喘息(合併症のない患者に最も有効)
3) 目の障害4疾患:急性結膜炎・中心性網膜炎・小児の近視・合併症のない白内障
4) 口の障害5疾患:歯痛・抜歯後の疼痛・歯肉炎・急性咽頭炎および慢性咽頭炎
5) 胃腸障害15疾患:食道痙攣および噴門痙攣・しゃっくり・胃下垂・急性胃炎および慢性胃炎・胃酸過多・慢性十二指腸潰瘍(疼痛の緩和)・合併症のない急性十二指腸潰瘍・急性腸炎および慢性腸炎・急性細菌性赤痢・便秘・下痢・麻痺性イレウス
6) 神経系および筋骨格障害17疾患:頭痛および片頭痛・三叉神経痛・初期(6か月以内)の顔面麻痺・脳卒中発作後の麻痺・末梢性ニューロパチー・初期(6か月以内)のポリオ後遺症・メニエール病・神経性膀胱生涯・夜尿症・肋間神経痛・頸腕症候群・五十肩・テニス肘・坐骨神経痛・腰痛・変形性関節症
だけどこれ、コロナ関連のニュースを覚えている人は「怪しい」と感じると思います。
WHOが発表した鍼灸の適応症は、1979年6月、北京で作成
今から40年くらい前から、WHOと中国の組み合わせです。WHOだけでも怪しいのに、さらに中国です。
鍼灸師でも知らない人が多いでしょう。
1979年6月、北京で開催した「鍼灸に関するWHO地域間セミナー」で発表されました。
世界から集まったセミナー参加者で合意された疾患は30種類。それがなぜか、公表された疾患が48種類になっていました……。
コロナを経験した今だと、「なるほどなぁ」と思うのは、あなたも同じじゃないですか?
しかも、注釈付きの適応疾患です。
「このリストは臨床経験に基づくものであって、必ずしも対照群を置いた臨床試験に基づくものではない。また、特定の疾患を含めたことは、鍼の有効性の範囲をしめすことを意図するものでもない」
結果的に、「鍼灸治療ってだいたい何にでも効果がある!」と鍼灸師自体も勘違いしている人も増えてしまいました。
時は流れて、1997年のアメリカで発表された鍼灸治療の効果
1997年、「鍼治療に関する合意のためのパネル会議(Consensus Panel)」がアメリカ国立衛生研究所(NIH)で開催されました。
ここでの発表は、WHOの発表とは違います。
- 偶然やプラセボ効果などを可能な限り排除
- 臨床試験をおこなった結果
WHOに比べると、かなり客観的な根拠になっています。
その一例
鍼治療が有望である
成人の術後および化学療法による嘔き気・嘔吐、歯科の術後痛、妊娠悪阻(つわり)
補助療法として有用、または包括的患者管理計画に含める可能性がある
薬物中毒・脳卒中後のリハビリテーション・頭痛・月経痛・テニス肘・線維性筋痛症・筋筋膜痛・変形性関節症・腰痛・手根管症候群・喘息
ただし、まだまだ手放しで歓迎できるデータとはいいにくい現状です。
「NIHの合意声明をどう読むか その1.鍼灸研究に求められているもの」のなかで、筑波技術短期大学名誉教授の西條一止先生も今後への提案をされていました。
くわしくはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/48/4/48_4_363/_pdf
そして、現在「公団法人 日本鍼灸師会」が発表している鍼灸の適応症
NIHの発表をもとに作成された鍼灸治療の効果です。
画像引用:赤門鍼灸柔整専門学校
② 運動器系疾患:関節炎・リウマチ・頸肩腕症候群・頸椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
③ 呼吸器系疾患:気管支炎・喘息・風邪および予防
④ 消化器系疾患:胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
⑤ 代謝内分秘系疾患:バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血
⑥ 生殖、泌尿器系疾患:膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎
⑦ 婦人科系疾患:更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊
⑧ 耳鼻咽喉科系疾患:中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎
⑨ 眼科系疾患:眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい
⑩ 小児科系疾患:小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善
すごくないですか? そして何も知らなければ「鍼灸治療は医者要らず」と思えるほどです。だけど、症状の軽重も書いてないですし、臨床試験のデータも書いてありません。
施術者の技術・経験、治療方法。患者の体調・体質。これらによってかなり変わります。
たとえば、① 神経系疾患:神経麻痺に関しても、中枢性や末梢性でもかなり違ってきますが、ひとくくりです。
まずは、「鍼灸治療の効果が期待できる疾患」程度に思ったほうがよいでしょう。
肉体労働職を主体とした有痛者117名を対象とした鍼灸治療の効果
次は、実際の患者さんに対する鍼灸治療の効果についてです。
企業内労働者における運動器症状への経絡テストを用いた鍼治療の効果と医療費との関連性があるかを鉄材の移動、組立、溶接作業などの動作を繰り返し行う肉体労働職を主体とした有痛者117名を対象として検討した。8週間の治療
「企業内労働者における運動器症状への鍼治療の効果と医療費との関連性に関する検討」という報告で、全日本鍼灸学会雑誌に発表されました。
117名を対象にしたものなので、データ数は少ないのですが、、
- 頚肩部痛で83%
- 腰痛で77%
- 膝痛で88%
- 心理検査 (POMS) では緊張、抑鬱、怒り、疲労、情緒混乱のスコアが有意に減少。
鍼治療期には運動器疾患の受診は半減し、その健康保険医療費は約1/3となった
経絡テストと呼ばれる診断方法でおこなった鍼灸治療ですが、鍼灸治療は運動器系疾患に効果的だっといえそうですね。
引用:全日本鍼灸学会雑誌 企業内労働者における運動器症状への鍼治療の効果と医療費との関連性に関する検討
全日本鍼灸学会所属423名が回答「鍼灸治療の効果」は?
次は鍼灸治療に関係する施術者側に対するアンケート結果です。(社) 全日本鍼灸学会学術部がおこなった意識調査について、
- 回収数
- 返信回答:239名、手渡し回答:184名 合計423名
- 鍼灸師の回答:93.2%
- 開業鍼灸師:70.2%
- 勤務鍼灸師:44.0%
効果判定では, 主訴と生体反応がともに変化があったと答えたものが50.9%を占めた。
うーん、何でしょう? 「主訴と生体反応がともに変化」? 患者さんの訴えと理学検査? ということでしょうか?
だとしたら、50.9%は低い気がします。
- 腰痛:84.9%
- 肩こり:77.3%
- 五十肩:75.0%
- 膝痛:66.2%
- 頸腕症候群:63.7%
- 坐骨神経痛:68.5%
引用:全日本鍼灸学会雑誌 鍼灸治療の効果に関する意識調査
一般的にいう鍼灸治療の適応疾患とだいたい一致しますね。
ただ五十肩に対する鍼治療の効果が75.0%は高い印象です。
四十肩・五十肩は俗称です。個人的には、癒着性肩関節包炎や腱板疎部損傷などで、夜間痛が辛すぎて眠れないレベルが四十肩・五十肩かなぁと思っています。
患者さんで、朝起きたら肩が痛いとか、肩が挙がらない人も多いですが、多くの場合、肩首周りがガチガチで動きが悪くなっていることがほとんど。その他には、身体のバランスの崩れや首からの影響などが多いです。
そう考えると、五十肩に対する鍼治療の効果75.0%は、肩こりというカテゴリが混じっているのでは? と思います。
四十肩・五十肩は、何もしなくても1年~3年で痛みが落ち着く場合がほとんです。(臨床的には、可動域は戻っていないと感じます)
四十肩は三つの病期「疼痛(とうつう)期」「拘縮(こうしゅく)期」「回復期」をたどるのが一般的な経過で、原則的には良くなる病気です。各期間が半年間継続し、発症してから治るまでに平均1年半かかることが多いです。
全体として1~3年が四十肩の病期として考えられています。
引用:医療法人西さっぽろ病院
四十肩・五十肩で来院される患者さんも多いのですが、まずは医療機関の受診をお願いしています。
最後は各論的な鍼灸治療の効果を取り上げます。
深部体温・血圧の正常化に対する鍼灸治療の効果
(公財)国際全人医療研究所代表理事 国際学術大学院大学 ビクトル・フランクル講座名誉教授 千代田国際クリニック院長 永田 勝太郎先生の報告によると、
鍼治療で深部体温(臓器の温度)を正常化できると伝えています。
また、鍼治療およぼす血圧への効果として、
低い血圧は上がる
鍼のもつ作用(恒常性)ですね。
同じ刺鍼をおこなっても、
低血圧の患者さんでは、鍼により昇圧的に作用。
したようです。
酸化ストレス(老化)に対する鍼灸治療の効果
こちらも永田 勝太郎先生の報告です。
適度な運動と抗酸化作用のある食べものを摂取するのが、一般的なアンチエイジングのイメージです。
代表的な経穴(ツボ)に刺鍼し、その前後の酸化ストレス(d-Romsテスト)、抗酸化力(BAPテスト)、潜在的抗酸化力(修正比)を評価したものになります。
鍼施行後、酸化ストレスが低減しましたが、抗酸化力には有意な変化がなく、 潜在的抗酸化力は上昇しました(広門靖正)。
当然ながら、どこに鍼をしても体液循環などはよくなるので、顔色などはよくなります。
個人的には、ピラティスやヨガを日常的におこなっている人で実験してもらいたいです。たぶん適度な運動(ピラティス・ヨガ)を続けたほうがよい結果になると考えています。
ストレスに対する鍼灸治療の効果
最後も永田 勝太郎先生の報告です。
刺鍼とDHEA-S(代謝産物である17-KS-Sを測定)、コルチゾール(代謝産物である17-OHCSを測定)、両者の比(17KS-S/17-OHCS×100)を検討してみました。
その結果、鍼施行後、DHEA-S、コルチゾールともに上昇することがわかり、刺鍼が刺戟療法であることが明確になりました。しかし、刺鍼の翌朝には、測定値は両者ともに下降したものの、両者の比は有意に高値をしめしました。これは修復機能が、摩耗に優れていた証明と考えられ ます(図3参照) (広門靖正)。
内臓関係やホルモンバランスにも、比較的作用するとわかりました。
古代の先人たちは、このように目に見えない鍼治療の効果を"気"で表現したのかもしれませんね。
引用:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団
鍼灸治療の効果についてのまとめ
鍼灸治療の効果として、筋骨格系疾患には効果的と感じている鍼灸師はたくさんいるでしょう。
一般的に整形外科で診る症状ですね。
ただ、本当に鍼灸治療じゃなければ治らないのか? 実際には、整体師のほうが早く治すことも考えられます。
筋骨格系疾患は、身体のバランスを整えると劇的に治るものが多く、身体全身を診ている整体師さんは良好な結果を残すでしょう。
鍼灸師も学校で習ったような治療(肩こりなら肩に鍼、腰痛なら腰に鍼)レベルだと、この先活躍する場面を整体師さんに取られてしまうでしょう。
データ的には灸治療の情報が少なかったので、また別の機会にお伝えしますね。
私は、しっかりとした検査をおこなって、東洋医学・西洋医学どちらからも矛盾のない施術を心がけています。鍼がもつ体へのよい影響が合わされば、かなり辛い症状でも結果を出せますよ。
鍼灸師もまずは、筋骨格系疾患はしっかり治せる技術と見立てを確立しましょう。肩こり腰痛でお悩みの人は、整体ではなく、ぜひ鍼灸治療も検討してくださいね。
画像引用:赤門鍼灸柔整専門学校
引用:全日本鍼灸学会雑誌 企業内労働者における運動器症状への鍼治療の効果と医療費との関連性に関する検討
引用:全日本鍼灸学会雑誌 鍼灸治療の効果に関する意識調査
引用:医療法人西さっぽろ病院
引用:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団