針治療をすると特別な感覚を術者・患者さんともに感じます。それは「ひびき:響き」とか「とっき:得気」と呼ばれるもの。
痛いという人もいれば、気持ちいいという人もいます。
今回は、針治療に興味のあるあなたに、針治療で感じる「ズーン」という「ひびき」「得気」の正体や種類。ズーンと感じるメカニズムは解明されているのか?
「ズーン」としたほうが、針治療が効果的なのかどうかを解説。また、「ズーン」が多いと翌日だるくなるので、その対処法もお伝えします。
針治療ズーンの正体
針治療をおこなうと、「ズーン」というなんとも形容しづらい感覚がおこります。
この「ズーン」のことを鍼灸師の先生から、「ひびき:響き」とか「とっき:得気」と教えてもらえるでしょう。
はじめて体験した患者さんからは、「ズーンと流れる感じ」「重い」「痛い」「なんか笑える」「気持ち悪い」とさまざまな感想に。
患者さんの体の状態や、部位によって「ズーン」とした感じは変わります。
鍼灸師は、針を刺したあとにテクニックを加えることで、「ズーン」の有無や強弱をコントロールできるでしょう。
針治療で得気(ひびき)を出す主なテクニック
主な出典:針経指南・気血問答
主な出典:杉山真伝流
主な出典:(素問:離合真邪論篇、難経:七十八難)
どれもカッコいい名前がついていますね。流派がたくさんあるので、この手技以外にもテクニックは、星の数ほどあります。
鍼の「ひびき」「得気」との違いは?
呼びかたは、鍼灸師の先生によって違います。しかし、同じ意味と思っていただいてOKです。
どちらも「ズーン」とか「ズンっ」とした、味わったことのない変な感覚になります。
私個人の分類だと、
- 「ひびき」:伝統的な日本の針治療
- 「得気」:中国鍼灸(中医学)
と考えています。
たまに「針感:しんかん」と呼ばれる先生もいらっしゃるでしょう。
「ひびき」「得気」の種類
これからご紹介する種類は、主に中国鍼灸での分類です。
- 酸:だるい感じ
- 麻:しびれたような感じ
- 重:重く圧迫された感じ
- 脹:はれぼったい感じ
ほかにマニアックですが、
患者さんが感じもの
涼・熱・痒・痛・触電(電気に触れる・電気が走る)・蟻行(蟻が這う)・水波(細波)・沈
鍼灸師が感じるもの
緊・澀・滞
もあります。
英語だと、得気・ひびきのことをneedle sensationと呼ぶこともあります。
さらにマニアックだと、黄帝内経と呼ばれる古い医学書には、
(気が至れば有効である.その効果は顕著であり,まるで風が雲を吹き払い青空を見るように症状は改善する.刺鍼の道理とはこのようなものである)
と書いてあります。
私の卒業した「東洋鍼灸専門学校」は、バリバリの日本伝統鍼灸だったので、「ひびく」感覚は、気が至るもの。まるで魚釣りをしていて、魚がエサを飲み込むが如く。と習いました。
魚釣りをした経験があればわかると思いますが、本当に「キュっ」と、針が引っ張られる感じになります。
針治療でズーンとなるメカニズム
残念ながら現代医学的には解明されていません。
機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や陽電子放出断層撮影法(PET)をもちいた研究もされていますが、メカニズムはまだまだブラックボックスです。
私個人の考えですが、針治療でズーンとなるのは、筋肉か筋膜の状態に影響をうけていると感じています。
- 急にマラソンをはじめた
- ひさびさのボーリングで10ゲーム連続で投げた
こんなことをすると、確実に次の日や2日後に筋肉痛になりますよね。いわゆる「手足パンパン」状態です。
こうなると触られるだけで痛みを感じます。こんなときに針治療をすると「ズーン」どころか「ビンビン」感じることでしょう。
逆にいうと、筋肉の状態がよければ針治療をしても「ズーン」と感じにくくなります。
あくまでも個人の見解です。
ゆえに教科書的には、東洋医学的にいう「気」が至るから……。なんとも微妙な説明しかできません。しかし、日本東洋醫學硏究會誌 第四巻 (2018)に発表された興味深い研究があります。
委中というヒザ裏にあるツボと、DAP※を使った得気に対するメカニズム解明です。
患者8名(男性5名、女性3名、平均年齢21.4±1.6 歳)
たった8名なので医学論文というには厳しいのですが、、、
患者1:21 歳男性,168cm, 70kg
主訴:右左前距腓靱帯周囲の疼痛により立位,歩行が困難である.
従来取穴での右委中穴の得気:
患者 1:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での右委中穴の得気:
患者 1:痛く硬い感じがする.
施術者:硬く締め付ける(緊張する)感じがする.患者2:20 歳女性,160cm,44kg
主訴:左足底部痛により歩行および走行が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者2:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者2:じーんとする感じと共に,鍼をぐいぐいと刺入されている感じがする.
施術者:ぐいぐいと鍼を締め付けてくる感じがする.患者3:25 歳男性,173cm,59kg
主訴:左大腿後面の著しい疼痛により体動が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者3:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者3:熱い液をドバドバっと注入されるような感じがする.
施術者:全体に締め付けられると共に,筋がびくびくとしまってくる感じがする.患者4:20 歳女性,156cm,49kg
主訴:腰痛により体動が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者4:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者4:ドクドクと波打つような感じがする.
施術者:筋がびくびくとしまってくる感じがする.患者5:21 歳男性,165cm,55kg
主訴:左足底部および左下腿の疼痛により走行が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者5:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者5:鍼がすーっと入っていく感じがする.
施術者:筋がドクドクとしまってくる感じがする.患者6:21 歳男性,168cm,70kg
主訴:腰痛により体動が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者6:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者6:ぐいぐい筋肉が収縮する感じがする.
施術者:筋肉がギュ―っとしまってくる感じがする.患者7:22 歳女性,158cm,58kg
主訴:腰痛により体動が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者7:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者7:足がビクビク動く感じがする.鍼を上下(深く‐浅く)に動かされている感じがする.
施術者:鍼を締め付けてくる感じがする.患者8:21 歳男性,175cm,80kg
主訴:両下肢痛により体動が困難である.
従来取穴での左委中穴の得気:
患者8:特に何も感じない.
施術者:特に何も感じない.
DAP での左委中穴の得気:
患者8:ドクドクと脈打つ感じの中で,鍼を上下(深く‐浅く)に動かされている感じがする.
施術者:鍼を締め付けてくる感じがする.
実験結果をみるとわかりますが、教科書な正しい取穴部位より、ちょっとずれた場所で得気(ひびき)を感じています。
感覚も千差万別。それだけ得気の感覚は形容しづらいです。
引用:得気に関する研究の新しい視点 ― 動的取穴法からの考察 ―
針治療の「ズーン」と「チクっ」は別ものです
針治療未経験のかたから、「針を体に刺すなんて痛いですよね??」と、よく聞かれます。
針治療で使用する針は、注射針より細いです。だから注射針のイメージの痛みを考えているなら、ほとんど無痛でしょう。
- 「ズーン」は、針を刺入したあとの感覚
- 「チクっ」は、針を刺すときの感覚
と思っていただいてOKです。だから治療中に痛いと訴える患者さんの場合、「ズーン」なのか「チクっ」なのかを伺っています。
私の場合、
- 「チクっ」は、針自体を新しいものに交換します。
- 「ズーン」は、手技や刺入深度、角度を変えて対応します。
針治療ではズーンとしたほうが効果的なの?
ここまで針治療のズーン(得気・ひびき)に関してお伝えすると、「ズーン」があったほうがいいなと思うかもしれません。
私個人の考えは、
- 「ズーン」となくても効果を出せます。
- 施術者側で「ズーン」はコントロールできます。
というかできないとダメでしょう(汗)
やたらめったら、「ズーン」「ズーン」とひびかすと、針治療になれていない患者さんは、翌日だるくてたまりません。いわゆる「オーバードーゼ」(刺激量過多)です。
まるでワクチン注射のように、倦怠感や微熱が出ることもあります。
一部の鍼灸師は、好転反応という人もいますが、好転反応がなくても適度な刺激量で100%効果を出せます。
まるで煮込み料理の火加減のように、微妙に刺激量を調整すればいいのです。
刺激量のコントロールができないので、保険として好転反応といっている印象をもちます。
針治療は、適切な場所に適切な刺激量があればOKです。だから、針治療でズーンとしなくても効果を実感できます。
針治療をうけてズンズン響いたあとの過ごしかた
ズンズン響かす針治療をうけると、翌日だるくてたまらなくなる場合があります。
ワクチン注射と同じで、ある程度しかたないです。
翌日は、「ひさびさに運動したから?」と思うくらい倦怠感が出る場合もあります。
針治療初体験なら、翌日は普段よりゆったりしたスケジュールでお過ごしください。
患部が痛い場合は冷やしたり、発熱してつらい場合は解熱剤を服用したりしましょう。
針治療をうけると、軽く運動したのと同じなので、お酒を飲むと普段より酔いが早くなりますよ。
針治療でズーンと響かなくても効果はあります
針治療のズーンは、得気とかひびきと呼ばれるものです。
現代医学的にはズーンとするメカニズムは解明されていませんが、東洋医学的には、「気が至るから」といわれています。
針治療のズーンはなくても、治療効果はあるでしょう。術者のテクニック、患者さんの体の状態によって誤差はありますが、ズーンとする針治療が苦手なら事前に鍼灸師に伝えてください。
私の針治療は、1本から3本くらいしか使用しません。
針治療を気で説明することは、矛盾が多いので避けています。だけど、気のイメージとしては、波風のない静かな沼に小石を投げて、水紋が対岸にたどり着くように考えています。
1本の針が、じわーとゆるやかに、そして確実に全身に効果を至らす感じです。
学校で習うような針治療だと、一度に複数の針を刺します。そうすると、小石をバシャバシャ投げるので、水紋同士がぶつかって乱れたり、打ち消し合ったりすると思います。
その結果、予期せぬ刺激量になり、効果も半減すると考えています。
針治療を検討中のかたは、針治療の方法はいろいろあるので、事前に問い合わせをしたほうがよいでしょう。
鍼灸師は、その追加の針は本当に必要なのか? そこのツボじゃなければダメなのか? 自問自答すると治療技術の向上につながりますよ。
引用:得気に関する研究の新しい視点 ― 動的取穴法からの考察 ―
参考文献:刺針テクニック 著者:韓 景献 谷口書店