鍼灸師やめとけ!といわれる理由はたくさんあります。
鍼灸師には開業権があるので、独立開業を目指して鍼灸師になる人が多いです。しかし、開業できるのはひと握り……。開業できても3年、5年、10年……と続けていけるのは、さらにひと握り。
施術で開業したいなら、鍼灸師じゃなくても整体師でもよいでしょう。
今回は開業して11年目の鍼灸師として、「鍼灸師はやめとけ」といわれる理由や、「鍼灸師は食べていけない10の理由」を考えてみました。
「鍼灸師になって後悔した」という人を減らしたいのと、「鍼灸師はやめとけ」といわれたけど「鍼灸師になってよかった!」と思える未来の鍼灸師を増やしたいのでお伝えします。
鍼灸師やめとけ
友人が「鍼灸師になりたい」と相談を受けたら「鍼灸師はやめとけ」と、説得する可能性が高いです。
どんな職業でもそうですが適正が必要。
鍼灸師になりたい理由の多くは、「ひとりで開業してゆったりすごしたい」そんな意見もあります。だけど、これ大変です。
たとえば看護師の場合、「現場から数年離れていた」としても求人はたくさんあります。
鍼灸師は、ほぼないと思ってください。
開業しても集客できないから、鍼灸師をやめたい人・実際にやめた人がたくさんいます。
鍼灸師は食べていけない10の理由
鍼灸師のあるあるとして、よくいわれているのが鍼灸師は食べていけない。
結論からいうと、条件によって違います。食べていけない可能性を考えてみました。
1.年齢が定年前後
私は夜間部(18時から)卒業ですが、50代60代の同級生が多かったです。
生理学の先生、高校の先生、歯科医、獣医、製薬会社の研究者など……。
医学的な知識や勉強することを苦にしない人ばかり。ただ、みなさん口をそろえて「記憶力が低下した」「覚えたものがすぐ忘れる」新しい知識を吸収するのに苦労されていました。さらに18時から21時までの授業を月~金曜日まで。
当時20代後半だった私でもきつかった。それなのに、50代・60代だと体力的にも相当大変だったと思います。
「定年後新しい人生として、鍼灸院を開業する。」そんな夢をお持ちのかたが多いでしょう。
持ち家で年金があればよいかもしれませんが、鍼灸師としての稼ぎだけでは食べていけない可能性が高いです。
2.協調性がない
鍼灸師は、世の中のお仕事のなかでも3本の指に入るくらい人と接する仕事です。
協調性がなければ、食べていけないどころか鍼灸師としても需要も微妙でしょう。
社会人を経験してから鍼灸師になるかたで、一定数「人間関係に疲れた……」という人は食べていけない可能性大です。
3.鍼灸に興味のない若い人(親が鍼灸師で半分むりやり)
私の学生時代にもいました。ご両親が鍼灸師で、本人がもともと別の仕事をやめたので、すすめられて鍼灸学校に入学しました。
結果は、1年の後期から休みがちになり2年から休学したと思います。(最後はやめたとウワサで聞きました。)
本人も20代前半なのに、夜間部(おっさんおばさん率高い)に入学しました。一般の大学や専門学校のようなキャンパスライフを想像していたのかもしれません。
私の母校に限っては、職業訓練校のような感じだったので、ギャップが大きかったのかもしれませんね。
4.技術だけ磨けばいいと思っている
独立して鍼灸院を開業するなら、マーケティングの知識は必須。
どんなお店でも、すぐれた商品と、それを購入していただく戦略と戦術が必要です。
鍼灸師として鍼治療の技術は、当たり前に必要です。
病院や治療院での雇われた環境なら、技術の追求だけでよいでしょう。しかし、技術だけでは鍼灸師として、生活できないです。
鍼灸学校時代も「鍼灸師は技術があれば食っていける」と豪語するおじいちゃん講師がいました。一体何年前の話なのか謎ですが、100%間違いです。
あきらかに治療技術が未熟な整体治療でも、鍼灸師より稼いでいる先生はたくさんいます。おそらく、未熟な技術をマーケティングや、人柄で補完できているのでしょう。
5.目をみて会話できない
鍼灸師を目指したキッカケが、「心を病んだときに鍼灸治療に出会った」そんな同級生がいました。
鍼灸師のなかには一般人と比較すると、変わった人がゴロゴロいます。
「協調性がない」とも似ていますが、会話するときに患者さんと目が合わせられないのは、鍼灸をはじめ、対人のお仕事はやめたほうがいいでしょう。
6.マーケティングの知識なし
鍼灸師を目指すほとんどのかたが、「開業」を目標にしているでしょう。
鍼灸師として雇用されたいなら話は別です。しかし、開業は技術✕マーケティングだと思います。
どちらかがゼロなら、鍼灸院は廃業する末路をむかえるでしょう。
鍼灸院を開業するなら、看板を出しますよね。次はチラシを巻きましょう。などなど……集客しないとはじまりません。
このような集客のスキルは、すぐには身につきません。
整体の学校では、カリキュラムに経営が学べる学校もあると聞きます。鍼灸学校だとおそらくないです。(最近はあるかもしれません。)
7.勉強したくない
鍼灸に限ったわけではありませんが、勉強が嫌いなら「鍼灸師はやめとけ」と誰からもいわれるでしょう。
鍼治療は残念ながら整体の治療と違って、痛いところに鍼をすれば一定数よくなります。
猿がやってもそこそこの結果が出るでしょう。
8.こだわりが強い
協調性とも近いですが、鍼灸師としてのこだわりが強すぎるのはよくありません。
「鍼治療でガンが治る」など、謎の医学理論を作り上げるかも。
ごく一部の患者さんからは、絶大な信頼を集めるかもしれませんが、大多数の患者さんからは、「この鍼灸師はうさん臭い」と思われて、来なくなるでしょう。
9.そもそも地域に人がいない
そもそも人が住んでいない地域で開業しても、鍼灸師は結婚どころか生活もできないでしょう。
鍼灸院の競合他社はほぼいない。しかし、最近は気軽に無資格で開業できる整体院も増えています。さらに、往診をするにしても移動距離が長ければ、1日で診られる患者さんの数も限られるでしょう。
10.鍼灸師を神格化している
自分自身が大病を患い、大病が鍼灸治療で治った! そんな体験をされて鍼灸師を目指そうと思うかたも多いでしょう。しかし、現実に鍼灸師の資格を取っても、同じ治療ができるかは別の話です。
鍼灸師・鍼灸治療を神格化しすぎると、あなた自身の技術が未熟だと感じるかもしれません。
鍼灸師になるのに、年齢制限や性別は不問
学校教育法第90条第1項の規定により、次のいずれかに該当すると受験できます。
高等学校もしくは中等教育学校(修業年限6年)を卒業した者、及び卒業見込の者
通常の課程による12年の学校教育を修了した者
高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者入学時に18歳以上であれば、年齢制限はありません。
引用:入試に関する質問 | 鍼灸・あん摩マッサージ・柔道整復を学ぶなら東京医療専門学校
入学する学校や学部によって、倍率が違います。ただ、最近は新設校の乱立によって、社会人枠のように面接で合否が決まる学校も増えています。
学校も商売です。定員割れする学校もあるらしいので、
- 授業料を払える
- 最低限のマナーがある
このような理由から、社会人は優遇されるのでしょう。
入学できても学力が低ければ卒業させなければいいだけです。そうすれば、「はり師・きゅう師合格率100%!!」と謳えます。
ちなみに、鍼灸学校で究極的な技術は学べません。国家試験合格至上主義の学校もあるようなので、実技より国家試験対策授業が優先される学校もあります。
社会人から鍼灸師
鍼灸学校は、1998年以降専門学校の新設校が増えてきました。
2004年4月1日時点で、141校です。
その理由は、裁判によるものでした。
1998年8月の福岡地裁における「柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件判決」(以下福岡地裁判決)以降、鍼灸専門学校の新設や学科の増設が相次いでいる。
引用:報告あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師学校養成施設の変遷と現状
鍼灸師の資格に年齢はありませんし、50代でも60代でも年齢制限はありません。だから、サラリーマンだけど将来「独立開業したい人」が鍼灸師を目指しています。
私も前職で体を壊して、仕事を継続することが困難になったのが、鍼灸師になったキッカケ。サラリーマンから鍼灸師になった組です。
私の受験のときは、試験もありました。しかし、最近は新設校が増えたので社会人枠の導入が増加傾向。だから、社会人が鍼灸師になりやすい環境が整っているでしょう。
主婦が鍼灸師になるには
女性で鍼灸師になりたいかたも多いです。最近は、美容鍼・美顔鍼と呼ばれるジャンルもあり、美容方面にも鍼灸治療が入っていきました。
私の学生時代、主婦で鍼灸師を目指しているかたが何名かいました。
30代から50代の女性です。もしかしたら、女性が鍼灸師になるのは男性より大変かもしれません。
とくに主婦だと、ご主人や子供の協力が必要ですが、そこが大変そうでした。
夜間部なので学校に来る前に、晩ごはんの準備を済ませて、授業が終われば速攻で帰宅。朝もお弁当の準備もあったかもしれません。
30代の女性は、途中で学校をやめました……。
自分のやる気だけでは、鍼灸師になるのは大変です。家族の協力がないなら鍼灸師はやめておくほうがよいでしょう。
鍼灸師のメリット・デメリット
個人的に考える鍼灸師のメリット・デメリットですが、鍼灸治療も含めて考えてみました。
デメリットが強く印象に残るなら、鍼灸師はやめとくほうがよいでしょう。
鍼灸師のメリット
- 開業権がある
- 国家資格
- 無事に合格すれば「はり師」「きゅう師」ふたつのライセンスが取得できる
- 西洋医学でダメだった症状を改善できる
- 薬に頼らない生活ができる
- 自分自身でセルフケアができる
- 老若男女問わず施術が可能
- 立地条件、治療技術すべてうまくいけば、ひとりでも1000万円は稼げる
鍼灸師のデメリット
- 施術で開業するなら整体師でもなれる
- 鍼灸が国家資格だからという優遇をほとんど感じない
- 保険をつかった施術は可能だが、医師の同意書が必要なのでハードルが高い
- 鍼灸師といっても通じず「整体師なんですね」といわれる
- 最低3年の養成施設での勉学が必要だが、学費が大学くらい必要
- 鍼や灸が怖い人にはなにもできない
- 養成機関の学費と時間を将来回収できない鍼灸師も多い
最近感じたのは、コロナによる緊急事態宣言1回目のとき。
エッセンシャルワーカーとして鍼灸院や整骨院は国家資格保持者として、なんの保証もありませんでした。しかし、整体師はネイルサロンなどと同じ扱いになり、休業保証があるという謎の区分けがありました。
整体院と比較すると
鍼治療の技術でなくても、手技で極めてもいいと考えるなら、鍼灸師はやめておいて整体師でもいいでしょう。
同じ資金を持って鍼灸院か整体院を開業するとして、開業してからがスタートと考える……。
大学くらいの学費を開業資金に回すことができる整体院は、有利なスタートができるでしょう。
勉強だけでも考えると、整体師は短期間での研修(またはまったく予備知識なし)でも整体院を開業できるので有利です。
鍼灸師はしんどい?楽しい?
鍼灸師は「しんどい」とか「きつい」とか「激務でつらい」思われがちですが、とくに厳しいと思ったことはありません。
楽しいかは別として、知識や技術を学んでいくのはワクワクしますよ。たぶん、普通のお勤めされるかたのほうが、激務でしょうし、きついと思います。
開業すれば、どんな職業でも経理や雑務なども増えるでしょう。そして売上の保証もありません。
雇われ鍼灸師でも、一般職とくらべて報酬は決して高いとはいえません。
3年間の時間とお金を先行投資しても、回収できない人は多いです。
鍼灸師に向いてる人
鍼灸師に向いている人はとくにないです。
鍼灸専門学校で最低限必要な勉強をして国家試験に合格すれば、鍼灸師にはなれます。だけど、鍼灸師として食っていける人と、鍼灸師として食えない人は区別できるでしょう。
1.守破離を理解している
守破離とは、修業中の段階をしめすものですね。
- 「守」:教わったことをまずは忠実に守って確実に身につける。
- 「破」:教わったものから、自分で考えて、よいと思うものはほかからも吸収して技術や心を向上させる。
- 「離」:ひとつの考えから離れて、オリジナルの施術を構築していく。
鍼灸治療の方法は、星の数ほどあります。このなかから、最高の技術・理論にたどり着くかは不明です。だけど、ふらふら~とあっちの流派、こっちの流派と浮気ばかりしていると、結局なにも手に入らないと考えています。
2.自分自身が健康である
鍼灸師は、施術をするのが生業です。
患者さんは、健康な鍼灸師に施術をお願いしたいでしょう。
たとえば、虫歯だらけの歯科医に歯の施術をしてもらいたくないですよね。
私は、体を壊して鍼灸師になりました。おかげさまで体を壊した20代より、自分で治療をして健康的な体をキープできていると思います。
3.向上心がある
鍼灸治療は、星の数ほどあります。そして流派も多いのでどれを選択するかだけでも大変です。
向上心を持って、鍛錬しないと「鍼灸師になんてならなければよかった」と後悔するでしょう。
一般企業に勤めていれば、週末や夜は自分の趣味に利用することもできます。だけど、鍼灸師は週末や夜の時間も研究などに費やすことも多くなるでしょう。
4.自分で調べたり実験するのが好き
刺激量? そもそもツボの位置がズレていた? 前回効いたのに今回ダメだった……。
施術に関する仮説と検証を楽しめる人が、鍼灸師に向いている人でしょう。
鍼灸治療は、紀元前からはじまっています。だから矛盾も多いです。
東洋医学の矛盾さは、嫌悪感を抱く人もいるくらい、矛盾でいっぱい。だから、仮説をたてながら日々施術することが大切だと思っています。
たとえば、腰痛に効くツボが足首にある。なぜ?? 教科書には◯◯と書いてあったけど、それって本当に?
実際に施術すると、効いたのかどうか微妙なときもあります。
5.コミュニケーションが上手
私は鍼灸師の資格を取って、最初の患者さんはネパール人でした。卒後すぐ、ボランティアでネパールにいったからです。
脈や舌を診れば体の状態はわかります。ただくわしい情報は聞き出せません。
言語も含めてコミュニケーションは絶対必要です。
人見知りのかたは、接客業などを鍼灸学校時代に経験するのもよいでしょう。実際、私は鍼灸学校時代にレストランやカフェでアルバイトしました。
鍼灸治療にくわしいかたなら、「脈だけで治せると鍼灸師はカッコいい!」と、思うかもしれません。ただ、そこを追求するなら、コミュニケーションスキルを高めたほうが、治療技術の成績は上がるでしょう。
なぜなら、患者さん自身も忘れている過去のケガや、感じていないストレスによって痛みが出ている場合があります。
脈だけで発見するのは、困難でしょう。コミュニケーションが高ければ雑談のなかからヒントが見つかります。
鍼灸師の需要は?仕事がないの?
鍼灸師の需要自体は増加傾向。
実際、病院内でも鍼灸治療を取り入れている医療機関もあります。ただし、年齢が高いほど病院勤務はむずかしいでしょう。しかし、鍼灸院・整骨院はまだハードルは低いです。また、整骨院の場合、柔道整復師より鍼灸師のほうが、時給や月給は安い場合が多いでしょう。
鍼灸師として、就職を考えているなら鍼灸師はやめとけといいたいです。
勤務できても、結婚できないくらい年収は低くなりがちですし、求人数の問題もあります。
柔道整復師・鍼灸師向けの情報メディア『柔鍼キャリア』によると、
鍼灸師の有効求人倍率の全国平均は「1.27」
引用:鍼灸師の就職活動を制するポイントは? 求人のチェックの方法を解説 | 柔鍼キャリア
となっています。
高いとみるか、低いとみるかは個人差がありますね。
鍼灸師になって後悔する前に
- 本当に鍼灸師になりたいのか?
- 楽そうだから選んでいないか?
- 柔道整復師じゃダメなのか?
- 整体師じゃダメなのか?
選択するのはあなた自身です。誰かのせいにしたり、学校のせいにしたりするのはいけません。すべては自分で決断しています。
最後に:鍼灸師「やめとけ」といわれた人へ
鍼灸の技術をどんどん高めて、周りにいる人や患者さんを助けたい! そんな熱い気持ちがあれば鍼灸師になってもやっていけるでしょう。
私は前職をやめたとき、税理士や美容師という選択肢があり、「鍼灸師」はまったく考えていませんでした。知識としての鍼灸師は知っていましたが、謎の仕事でした。
当然、鍼治療を受けたこともありません。
体を壊したので漠然と医療系の仕事を探していたとき、みつけたのが鍼灸師でした。
東洋医学だと、「自分の体が治るかもしれない。」「独立開業ができる。」このふたつが私には魅力でした。
最後は、直感です(笑)
まったく未知だった世界に入りましたが、見事に性格に合い今日まで続けています。
あなたは、人から「やめとけ」といわれて悩むなら、本当にやめておいたほうがいいです。だけど、自分の知らない世界が広がるのと、「ありがとう」と直接感謝されながら報酬がいただける仕事は、なかなかないと思いますよ。