灸について
灸(きゅう、やいと、moxibustion)は, 経穴(つぼ)と呼ばれる特定の部位に対し温熱刺激を与えることによって生理状態を変化させ、疾病を治癒すると考えられている伝統的な代替医療、民間療法である。中国医学、モンゴル医学、チベット医学などで行われる。
もぐさを皮膚に乗せて火を点ける方法が標準とされるが、種々の灸法が存在する。
医師以外の者が灸を業として行う場合は灸師免許が必要となる。
灸の歴史
灸の起源は約三千年前の古代中国の北方地方において発明されたといわれている。インドやチベットという説もあるが、多くの地方に皮膚を焼くことを治療行為とする伝記は残っている。
日本において鍼、灸、湯液などの伝統中国医学概念は遣隋使や遣唐使などによってもたらされたといわれている。灸は律令制度や仏教と共に日本に伝来したが、江戸時代に「弘法大師が持ち帰った灸法」として新たな流行となり、現在も各地に弘法の灸と呼ばれて伝わっている。また他にも「家伝の灸」として無量寺の灸、四ツ木の灸などがある。これらの灸法は打膿灸と呼ばれ、特に熱刺激が強く、皮膚の損傷も激しいため、あまり一般化していない。打膿灸は日本において腰痛や神経痛など様々な症状に用いられるが、実際のところは腫れ物(癰)などに用いたのではないかとも考えられる。
鍼とは異なって、奥の細道にも『三里に灸すゆるより』とあるように、旅路での足の疲れを癒したり、徒然草にあるように「40歳以上の者は三里に灸をすると、のぼせ(高血圧)を引き下げる」というように、灸をすることは庶民へ民間療法的側面を強くしながら伝わっていった。
もちろん公家や医官の間でも灸法は発達し『名家灸選』や『灸法指南』などといった書物が編纂された。戦後に活躍し昭和の名灸師と言われた深谷伊三郎は『黄帝明堂灸経』や『名家灸選』などを読んで深谷灸法を作り上げた。ただし彼の灸法は、日本独自の医書だけではなく、中医学で行われている灸法や奇穴も取り入れており、そのツボに灸することで効くという単純さが現在も多くの鍼灸師に多大な期待を与えている。
灸法の種類
灸のセットの例
ここでは灸法の一例を紹介する。灸は、皮膚の上に直接据えて灸痕を残す有痕灸と、直接は据えるが灸痕を残すことを目的としないまたは直接は据えない無痕灸とに大きく二分される。
有痕灸
- 透熱灸
- 本来の「灸法」はこれを指し、皮膚の上に直接モグサをひねったものである艾炷(がいしゅ)を立てて線香で火をつけて焼ききる。艾炷の大きさは灸法によってさまざまであるが米粒大(べいりゅうだい)や半米粒代(はんべいりゅうだい)が基本である。
- 焼灼灸
- 魚の目や胼胝(タコ)など角質化した部位に据える。硬くひねった艾炷によって角質化した部位を焼き落とす。角質化した部位にうまく当たれば熱さはあまり感じない。
- 打膿灸
- 大豆大から指頭大の灸を焼ききり、その部位に膏薬を塗って故意に化膿させる。本来は、膿瘍や癰腫に用いられたと考えられるが、日本では化膿することにより白血球数を増加させて免疫力を高める灸法といわれる。大きな灸痕を残すため一部の灸療所でのみ行われ、家伝灸として伝えられている。
- 直灸(点灸)
- その名の通り、皮膚の上に点を付けてその上に艾炷を立てる。やり方は透熱灸と同じであるが、治療院や鍼灸師によっては知熱灸と同じやり方をしているところもある。
無痕灸
- 知熱灸
- 米粒大や半米粒大を8分で消す八分灸や大き目の艾炷(シュ)をつくり熱を感じると取る方法がある。
- 隔物灸
- 艾の下に物を置いて伝導熱を伝える灸。下に置くものとしてはしょうがやにんにく、ビワの葉、ニラ味噌、塩などがある。下に置く物の薬効成分と温熱刺激を目的とした灸法。
- 台座灸(温筒灸、円筒灸)
- 既製の台座または筒状の空間を作り台座とする隔物灸の一種。せんねん灸やカマヤ灸、長生灸(レギュラー、ライト)、つぼ灸などの商品名で市販されてものもこれに含まれる。現在、最も一般な灸である。
- 棒灸
- 棒状の灸をそのまま近づけるまたは専用の器具を使って近づける。輻射熱で温める灸。中国で主流の灸法。
- 灸頭鍼
-
- 皮膚に鍼を刺鍼してその鍼柄に丸めた灸をつけて火をつける。鍼の刺激と灸の輻射熱を同時に与えることが出来る。元来は鍼頭灸と呼ばれ、これを行ったのは中国から帰った笹川智興氏 が日本で最初である。当時は極端に斜刺した鍼の鍼柄に艾をからませて、灸をメインとした治療法であった。現在知られる「灸頭鍼」は赤羽幸兵衛からであり、 鍼と灸の両方の効果を期待したのはここからである。また、中国では「温鍼」と呼ばれ、日本のように丸々と艾を固めるのではなく、鍼に艾を長細く巻き付ける ような感じで行う。
- 薬物灸
- 艾は使用せず、体の上に薬品を塗って皮膚に熱を伝える灸。紅灸、漆灸、水灸、油灸、硫黄灸などがある。
- 箱灸
- 綿灸(綿花灸)
- 湿らせた綿花の上に艾を乗せて線香で火をつける。
- ガーゼ灸
- 湿らせたガーゼの上に艾炷を乗せてライターで直接焼く。
作用
自律神経などに作用して、内分泌に影響を与えることが確認されており、局所の火傷から出る加熱蛋白体(ヒストトキシン)は、血中に吸収され、各種幼弱白血球が増加して免疫機能が亢進することが認められている。
- 増血作用 - 灸をすることで赤血球を増やし、血流を良くする
- 止血作用 - 灸をすることで血小板の働きを良くし、治癒の促進を促す。
- 強心作用 - 灸をすることで白血球を増やし、外敵から防御する。
補瀉
灸では気が少なかったり、余ったりすると気を補ったり、瀉したりすることで体を整える
補 | 瀉 | |
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子母 | その母を補う | その子を瀉す |
艾質 | 良質の艾を用いる | 良質艾でなくてもよい |
燃焼 | 火は吹かずに火が自然に燃やし消えるのを待つ | 火を風を送って吹いて速く火を消す |
熱さ | 熱さを緩やかにして心地よい熱感である | 熱さを激しくして強い熱感を与える |
密着度 | 皮膚に軽く付着させる | 皮膚に密着させる |
艾の硬さ | 艾を柔かく捻る | 艾を硬く捻る |
底面 | 艾炷を高くし、底面を狭くする | 艾炷を低くし、底面を広くする |
続行 | 灰の上に重ねて施灸する | 灰を除去しながら施灸する |
大きさ | 小さい艾を用いる | 大きい艾を用いる |
壮数 | 壮数を少なくする | 壮数を多くする |
ウィキペディアより一部抜粋